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2017
電力システム改革の課題 自由化に反する原発救済策 都瑠文化大学教授 高橋洋
- CATEGORYエネルギー・エコ・電力
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原発は不要です。ではどうすればそのような社会が実現するのでしょうか。
聖教新聞に「電力システム改革の課題」について都瑠文化大学教授・高橋洋(たかはしひろし)氏の記事が掲載されていましたので紹介します。
政府は2016年9月末に審議会を立ち上げ、年末までに結論を出そうとしてきた。その実態は原子力発電事業を国民負担によって救済する内容であり、本来の電力システム改革の趣旨に反すると考えられる。
原発救済策は大きく二つからなっている。
一つは、過酷事故を起こした福島第一原発の処理に苦しむ東京電力の救済である。
政府(民主党政権)は2011年夏に原子力損害賠償支援機構法を制定し、全原発事業者から事故処理に掛かる費用を徴収する仕組みを作った。これによって東電の債務超過は回避された。
しかし、損害賠償、除染、廃炉等に掛かる費用の総額は、当初見積もりの2倍、21.5兆円に達することが明らかになり、新たな救済策が必要となってきた。そのため、電力自由化後も独占が維持される託送料金(送配電網の利用料金)に上乗せすることで、全ての消費者から費用を安定的に回収するという。
そうすると、「原発の電気を買いたくない」という新電力の顧客まで原発にかかわる費用を払うことになる。政府の説明は、もともと過酷事故に備えた積立が不十分だったのであり、これまで消費者は安い原発の電気を享受してきたため、その不足分を今から払ってもらうということだ。
二つめは、全ての原発事業者の通常の廃炉に掛かる費用も、同じく託送料金に上乗せして全国の消費者から徴収するというものだ。
これは、福島事故後の安全規制の強化により、廃炉の時期が60年という想定から40年程度に早まったため、資産処理や廃炉の費用が不足するという理由からだ。政策変更による費用増加のため、事業者に負担させるのは酷だという。現時点では、福島事故後に廃炉を表明した6基に限定されるとのことだが、今後、この対象が増える可能性が高い。
第1に、通常の商取引の規範から逸脱している。例えば鉄道事業者が高速鉄道で大事故を起こしたとして、「以前から事故費用を積み立てておくべきだった」と言って全消費者に追加徴収するとすれば、どうだろうか。規制料金だとしても、過去の時点で商取引は成立しているのだから、事後的に徴収してよいはずがない。
そのような負担の転嫁を許せば、事業者にモラルハザードが生じる。安すぎた規制料金を認可した政府の責任も問われるべきだろう。
第2に、これまで政府は、原発は安いとして推進してきたのであり、今後もその方針を変えていない。引き続き安いとすら言っている。これだけの追加費用を消費者から徴収しなければ事業者がつぶれるような事業に、経済性があるとは思えない。
政府は、原発救済策の見返りに、電力自由化の競争促進策として、大手電力会社から卸電力取引所へ電力を供給させることや、地域間送電網の運用方法を新規参集者も利用しやすいルールに改めるとしている。
しかし、これらの競争促進策は、本来自由化の前提条件だったはずだ。既存事業者は圧倒的に優位な立場にあり、そのままでは競争が生じないからである。遅きに失した競争促進策が、いつの間にか原発、既存事業者を救済するための交換条件になってしまった。これが第3の問題点だ。
1990年代以降、欧米では原子力や石炭火力といった集中型電源から再生可能エネルギーなどの分散型電源への転換、独占から競争への自由化が進んでいる。
具体的には、風力や太陽光、バイオマスを大量導入する、送電会社を分離して公平で効率的な系統運用を行う、市場を自由化して消費者に選択肢を与える、スマートメータの導入などにより消費者の需給調整機能を促す、などである。
これにより原子力や石炭火力は減り、エネルギー自給率は高まるとともに、温室効果ガスの排出は減り、消費者や地域企業の存在感が高まる。
政府は、この電力システム改革を貫徹するために今回の救済策が必要だというが、理解しがたい。
第1に、前述の通り、自由化に反し、新規参集者の支援どころか、既存事業者の救済になる。
第2に、原子力などの集中型電源を優遇している。政府は今でも「原発依存度を可能な限り低減する」としており、その積極的に低減すべき電源を救済する必要はない。
それでも救済策が必要とすれば、まず原子力政策を転換し、このような高リスク・高コストの電源の収束の道を明らかにすべきである。また、原発事業者や政府が十分に責任を取ることが先であろう。そこには、発電所や送電網の売却も含まれる。
最後にそれでも消費者負担が必要だとしても、総額が増えないように上限を設ける、税金などの透明性の高い徴収方法に改めるといった対応が必要だろう。
(聖教新聞2016年12月15日(木)付 電力システム改革の課題について 都瑠文化大学教授 高橋洋)
これから廃炉が増えるにつれ、間違いなく廃炉費用は現在の21.5兆円から増えるのでしょう。
今回の高橋洋氏の提言は、一般市民には脱原発の何が問題なのか、その課題を明らかにしてくれていると感じます。
大好きな日本です。これからの世代が喜んで住める国にしていく我々の責任は重いと感じます。
ありがとうございます。
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原発は不要です。ではどうすればそのような社会が実現するのでしょうか。
聖教新聞に「電力システム改革の課題」について都瑠文化大学教授・高橋洋(たかはしひろし)氏の記事が掲載されていましたので紹介します。
貫徹のための改革案
電力システム改革を「貫徹するため」の政府の改革案がまとまりそうだ。政府は2016年9月末に審議会を立ち上げ、年末までに結論を出そうとしてきた。その実態は原子力発電事業を国民負担によって救済する内容であり、本来の電力システム改革の趣旨に反すると考えられる。
原発救済策は大きく二つからなっている。
一つは、過酷事故を起こした福島第一原発の処理に苦しむ東京電力の救済である。
政府(民主党政権)は2011年夏に原子力損害賠償支援機構法を制定し、全原発事業者から事故処理に掛かる費用を徴収する仕組みを作った。これによって東電の債務超過は回避された。
しかし、損害賠償、除染、廃炉等に掛かる費用の総額は、当初見積もりの2倍、21.5兆円に達することが明らかになり、新たな救済策が必要となってきた。そのため、電力自由化後も独占が維持される託送料金(送配電網の利用料金)に上乗せすることで、全ての消費者から費用を安定的に回収するという。
そうすると、「原発の電気を買いたくない」という新電力の顧客まで原発にかかわる費用を払うことになる。政府の説明は、もともと過酷事故に備えた積立が不十分だったのであり、これまで消費者は安い原発の電気を享受してきたため、その不足分を今から払ってもらうということだ。
二つめは、全ての原発事業者の通常の廃炉に掛かる費用も、同じく託送料金に上乗せして全国の消費者から徴収するというものだ。
これは、福島事故後の安全規制の強化により、廃炉の時期が60年という想定から40年程度に早まったため、資産処理や廃炉の費用が不足するという理由からだ。政策変更による費用増加のため、事業者に負担させるのは酷だという。現時点では、福島事故後に廃炉を表明した6基に限定されるとのことだが、今後、この対象が増える可能性が高い。
遅きに失した促進策
しかし、このような救済策は極めて問題が大きい。第1に、通常の商取引の規範から逸脱している。例えば鉄道事業者が高速鉄道で大事故を起こしたとして、「以前から事故費用を積み立てておくべきだった」と言って全消費者に追加徴収するとすれば、どうだろうか。規制料金だとしても、過去の時点で商取引は成立しているのだから、事後的に徴収してよいはずがない。
そのような負担の転嫁を許せば、事業者にモラルハザードが生じる。安すぎた規制料金を認可した政府の責任も問われるべきだろう。
第2に、これまで政府は、原発は安いとして推進してきたのであり、今後もその方針を変えていない。引き続き安いとすら言っている。これだけの追加費用を消費者から徴収しなければ事業者がつぶれるような事業に、経済性があるとは思えない。
政府は、原発救済策の見返りに、電力自由化の競争促進策として、大手電力会社から卸電力取引所へ電力を供給させることや、地域間送電網の運用方法を新規参集者も利用しやすいルールに改めるとしている。
しかし、これらの競争促進策は、本来自由化の前提条件だったはずだ。既存事業者は圧倒的に優位な立場にあり、そのままでは競争が生じないからである。遅きに失した競争促進策が、いつの間にか原発、既存事業者を救済するための交換条件になってしまった。これが第3の問題点だ。
透明性高める対応を
電力システム改革とは、電力を巡る仕組みの構造改革である。1990年代以降、欧米では原子力や石炭火力といった集中型電源から再生可能エネルギーなどの分散型電源への転換、独占から競争への自由化が進んでいる。
具体的には、風力や太陽光、バイオマスを大量導入する、送電会社を分離して公平で効率的な系統運用を行う、市場を自由化して消費者に選択肢を与える、スマートメータの導入などにより消費者の需給調整機能を促す、などである。
これにより原子力や石炭火力は減り、エネルギー自給率は高まるとともに、温室効果ガスの排出は減り、消費者や地域企業の存在感が高まる。
政府は、この電力システム改革を貫徹するために今回の救済策が必要だというが、理解しがたい。
第1に、前述の通り、自由化に反し、新規参集者の支援どころか、既存事業者の救済になる。
第2に、原子力などの集中型電源を優遇している。政府は今でも「原発依存度を可能な限り低減する」としており、その積極的に低減すべき電源を救済する必要はない。
それでも救済策が必要とすれば、まず原子力政策を転換し、このような高リスク・高コストの電源の収束の道を明らかにすべきである。また、原発事業者や政府が十分に責任を取ることが先であろう。そこには、発電所や送電網の売却も含まれる。
最後にそれでも消費者負担が必要だとしても、総額が増えないように上限を設ける、税金などの透明性の高い徴収方法に改めるといった対応が必要だろう。
(聖教新聞2016年12月15日(木)付 電力システム改革の課題について 都瑠文化大学教授 高橋洋)
これから廃炉が増えるにつれ、間違いなく廃炉費用は現在の21.5兆円から増えるのでしょう。
今回の高橋洋氏の提言は、一般市民には脱原発の何が問題なのか、その課題を明らかにしてくれていると感じます。
大好きな日本です。これからの世代が喜んで住める国にしていく我々の責任は重いと感じます。
ありがとうございます。
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