09
2017
廃炉への課題 福島第一原発廃炉検討委員会 宮野廣委員長
- CATEGORYエネルギー・エコ・電力
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この廃炉作業では、東京電力ホールディングスの福島第一廃炉推進カンパニーが実行部隊になり、全体の事業は国がとりまとめ、指揮する体制になっています。
詳しくは、政府(経済産業省)が中長期のロードマップを決定し、それに従って全体計画を作るのがNDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)です。
また、廃炉作業に必要な技術開発には、IRID(国際廃炉研究開発機構)やJAEA(日本原子力研究開発機構)が支援しています。
政府は、廃炉推進カンパニーから作業状況についての報告を受け、NDFは国の指導を受けながら、プロジェクト全体を管理する。こうした体制で現在、廃炉事業は進められています。
まず、プロジェクト全体に関わる問題があります。現在、廃炉事業は複数の組織がそれぞれ役割を担い、求められた作業についてのみ実行する体制を取っているため、その作業が全体の成果にどのように結び付いていくのかを捉えるのが難しく、誰が責任を持っているのか、その範囲や境界が明確でない体制になっているように思われます。今後、より困難さを増す廃炉事業では、目標に向かい、各組織がつながりを持って、着実に成果をフォローしながらプロセスを踏んでいく、そうしたマネジメントが必要です。
次に、事故炉の安全目標です。周辺地域や住民に被害、特に放射線による被害を及ぼさないことが廃炉事業の重要な安全目標になります。そのための廃炉作業における管理すべき項目とその管理値を示すことが必要です。
具体的な例を挙げれば、事故炉の耐震基準をどうするかといった問題があります。安全目標を明らかにし、これ以上の被害は起きないことを周辺住民に、また国民に広く示さなければなりません。
さらに、廃炉事業の最終的な状態=エンドステートをどのようなものとすべきかという課題も残っています。現在のロードマップでは、2020年に汚染水の処理を完了させ、21年には燃料デブリの取り出しを始め、51年までに廃炉が完了する計画です。
ところが、このロードマップには福島第一原発全体の最終の姿は示されていません。現在も既に大量の廃棄物を抱えており、今後、廃炉作業の過程でさらに大量の放射性廃棄物が発生しますが、これらを最終的にどのような状態で管理していくのか、処分するのか。そうした最後の形によって、廃棄物の量も異なり、作業にかける時間なども異なり、廃炉作業の進め方も変わっていくと考えられます。まずエンドステートをどのようにすべきかを議論し、決めることが必要なのではないでしょうか。
廃炉事業では、これらの課題に対し、リスク低減戦略を方針の中心に置き、取り組むこととしています。上記の課題に対して、どのように対応していくのか重要な論点といえます。
この調査では内部の放射線量が毎時600シーベルトを超えている場所も見つかりました。これは想定以上の高レベルの放射性物質が格納容器内の相当の領域を汚染している可能性があることを示しています。
格納容器の底部にかたまりとして存在している燃料デブリの取り出しと比べても、高レベルで広く汚染された領域の除染にはさらに多くの困難が伴います。床や壁面はまだしも、張り巡らされた配管やケーブルの除染は技術的に難しい点が多いと考えられます。
こうしたことからも、今後、調査が進むことで、廃炉作業のより厳しい局面が明らかになり、新たな技術の開発が必要になってくることは間違いありません。
日本原子力学会では、現在、「福島第一原子力発電所廃炉検討委員会」を設置し、叡智を結集する体制を構築し、廃炉事業の支援を進めています。ロボット分科会、リスク評価分科会などでは、既に関連学会、関連機関と連携を進めていますが、広い視点からアイデアを創出して提供していきたいと考えています。
そこで、忘れてはならないのは、廃炉事業を担う人材の育成と考えます。福島原発事故を経験した日本は、その経験を原子力の安全に生かしていかなければなりません。そのためには廃炉技術だけでなく、多岐にわたる分野で安全に資する人材を育てることが、日本のこれからの使命であると私は考えています。
原子力関連の学科に進学する学生は、福島原発事故をきっかけに1990年代からの減少に拍車が掛かる傾向にありましたが、最近では福島原発事故への対応のニーズを理解し、意識の高い学生が集まる傾向が出てきました。「原子力の安全に携わりたい」「廃炉に貢献できる分野で就職したい」と使命感を持つ学生も多くいるようです。
福島第一原発の廃炉の完了までは、数十年の長い道のりですが、その中で、高度な科学技術の安全を担う人材が育っていくための社会的基盤をつくっていくことが必要であると考えています。
みやの・ひろし 1948年、石川県生まれ。工学博士。東芝に入社後、原子力技術研究所部長、原子力事業部原子炉システム設計部長、原子力技師長、東芝エンジニアリング取締役などを経て現職。日本原子力学会フェロー、日本保全学会特別顧問等を兼任。
(聖教新聞2017年6月1(木)付 廃炉への課題 福島第一原発廃炉検討委員会 宮野廣委員長)
政治家は何をすべきなのか、我々は何ができるのか。今ある情報を広く公開し、英知を結集して一刻も早く、未来の人々が安心して活用できるエネルギーに転換してほしいと願っています。
ありがとうございます。
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叡智を集め、安全の基盤を 最終の姿を明確にする必要も 福島第一原発廃炉検討委員会 宮野廣 委員長
福島原発事故から6年たちました。事故炉の内部にカメラが入り、溶融した燃料の可能性がある堆積物が確認されるなど、燃料デブリの取り出しに向けた調査はようやく緒に就いたといえますが、廃炉までの道のりはなお遠い状況です。ここでは、聖教新聞に日本原子力学会「福島第一原子力発電所廃炉検討委員会」の宮野廣委員長(法政大学大学院客員教授)に、廃炉に向けた課題について書かれていましたので掲載いたします。具体的な作業の段階に
多くの国民にとって、原発事故の衝撃的な映像は、今も脳裏に焼き付き消えていないと思いますが、事故から6年が過ぎ、福島第一原発は具体的な廃炉作業へと向き合うべき段階に入っています。この廃炉作業では、東京電力ホールディングスの福島第一廃炉推進カンパニーが実行部隊になり、全体の事業は国がとりまとめ、指揮する体制になっています。
詳しくは、政府(経済産業省)が中長期のロードマップを決定し、それに従って全体計画を作るのがNDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)です。
また、廃炉作業に必要な技術開発には、IRID(国際廃炉研究開発機構)やJAEA(日本原子力研究開発機構)が支援しています。
政府は、廃炉推進カンパニーから作業状況についての報告を受け、NDFは国の指導を受けながら、プロジェクト全体を管理する。こうした体制で現在、廃炉事業は進められています。
目標へ各組織が連携
事故炉の廃炉という未曽有のプロジェクトですが、これまでの活動の中から、既に見えてきた課題がいくつかあります。まず、プロジェクト全体に関わる問題があります。現在、廃炉事業は複数の組織がそれぞれ役割を担い、求められた作業についてのみ実行する体制を取っているため、その作業が全体の成果にどのように結び付いていくのかを捉えるのが難しく、誰が責任を持っているのか、その範囲や境界が明確でない体制になっているように思われます。今後、より困難さを増す廃炉事業では、目標に向かい、各組織がつながりを持って、着実に成果をフォローしながらプロセスを踏んでいく、そうしたマネジメントが必要です。
次に、事故炉の安全目標です。周辺地域や住民に被害、特に放射線による被害を及ぼさないことが廃炉事業の重要な安全目標になります。そのための廃炉作業における管理すべき項目とその管理値を示すことが必要です。
具体的な例を挙げれば、事故炉の耐震基準をどうするかといった問題があります。安全目標を明らかにし、これ以上の被害は起きないことを周辺住民に、また国民に広く示さなければなりません。
さらに、廃炉事業の最終的な状態=エンドステートをどのようなものとすべきかという課題も残っています。現在のロードマップでは、2020年に汚染水の処理を完了させ、21年には燃料デブリの取り出しを始め、51年までに廃炉が完了する計画です。
ところが、このロードマップには福島第一原発全体の最終の姿は示されていません。現在も既に大量の廃棄物を抱えており、今後、廃炉作業の過程でさらに大量の放射性廃棄物が発生しますが、これらを最終的にどのような状態で管理していくのか、処分するのか。そうした最後の形によって、廃棄物の量も異なり、作業にかける時間なども異なり、廃炉作業の進め方も変わっていくと考えられます。まずエンドステートをどのようにすべきかを議論し、決めることが必要なのではないでしょうか。
廃炉事業では、これらの課題に対し、リスク低減戦略を方針の中心に置き、取り組むこととしています。上記の課題に対して、どのように対応していくのか重要な論点といえます。
事業担う人材の育成へ
今年に入り、燃料デブリの取り出しの調査のために、2号機にロボットが投入され、原子炉格納容器内の様子が映し出されました。この調査では内部の放射線量が毎時600シーベルトを超えている場所も見つかりました。これは想定以上の高レベルの放射性物質が格納容器内の相当の領域を汚染している可能性があることを示しています。
格納容器の底部にかたまりとして存在している燃料デブリの取り出しと比べても、高レベルで広く汚染された領域の除染にはさらに多くの困難が伴います。床や壁面はまだしも、張り巡らされた配管やケーブルの除染は技術的に難しい点が多いと考えられます。
こうしたことからも、今後、調査が進むことで、廃炉作業のより厳しい局面が明らかになり、新たな技術の開発が必要になってくることは間違いありません。
日本原子力学会では、現在、「福島第一原子力発電所廃炉検討委員会」を設置し、叡智を結集する体制を構築し、廃炉事業の支援を進めています。ロボット分科会、リスク評価分科会などでは、既に関連学会、関連機関と連携を進めていますが、広い視点からアイデアを創出して提供していきたいと考えています。
そこで、忘れてはならないのは、廃炉事業を担う人材の育成と考えます。福島原発事故を経験した日本は、その経験を原子力の安全に生かしていかなければなりません。そのためには廃炉技術だけでなく、多岐にわたる分野で安全に資する人材を育てることが、日本のこれからの使命であると私は考えています。
原子力関連の学科に進学する学生は、福島原発事故をきっかけに1990年代からの減少に拍車が掛かる傾向にありましたが、最近では福島原発事故への対応のニーズを理解し、意識の高い学生が集まる傾向が出てきました。「原子力の安全に携わりたい」「廃炉に貢献できる分野で就職したい」と使命感を持つ学生も多くいるようです。
福島第一原発の廃炉の完了までは、数十年の長い道のりですが、その中で、高度な科学技術の安全を担う人材が育っていくための社会的基盤をつくっていくことが必要であると考えています。
みやの・ひろし 1948年、石川県生まれ。工学博士。東芝に入社後、原子力技術研究所部長、原子力事業部原子炉システム設計部長、原子力技師長、東芝エンジニアリング取締役などを経て現職。日本原子力学会フェロー、日本保全学会特別顧問等を兼任。
(聖教新聞2017年6月1(木)付 廃炉への課題 福島第一原発廃炉検討委員会 宮野廣委員長)
政治家は何をすべきなのか、我々は何ができるのか。今ある情報を広く公開し、英知を結集して一刻も早く、未来の人々が安心して活用できるエネルギーに転換してほしいと願っています。
ありがとうございます。
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