09 2017

環境先進国アイスランドの試み 発電の95%を自然から 加藤修一

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170714地熱発電

発電の95%を自然から エネルギー転換で大胆に挑む 京都大学大学院経済学研究科特任教授 加藤修一

 最近の聖教新聞にはエネルギー問題について多岐にわたり掲載されています。私は非常に嬉しく思っています。なぜならば、エネルギー問題は間違いなくこれからの社会において非常に重要なことだからです。しかし、いつもある電気エネルギーは空気のように無尽蔵にあるように思えてしまうため、以外に気づくことが難しかったりします。ここでは、聖教新聞に京都大学大学院経済学研究科特任教授の加藤修一氏の、環境先進国アイスランドの試みについて書かれていましたので掲載いたします。

火力も原子力もない

 北極圏に近いアイスランドは、人口三十数万人、北海道の1・2倍程度の広さを持つ北欧の国である。オーロラの神秘的な乱舞、氷河と虹がかかる大瀑布など神々しい自然美が豊かである。昨年は海外観光客が総人口の5倍強とにぎわった。
 世界最大の温泉・ブルーラグーンが目玉の一つだが、日本との違いは水着着用だけではない。温泉は地熱発電の使用済み排水の再利用だ。地熱の暖房利用は100%の家庭に普及し、水産加工業、温室、プール、道路融雪などに余すことなく使うカスケード的(多段的)熱利用である。
 エネルギー自給率は85%強、火力発電も原発もなく、電力の95%が地熱や水力などの自然エネルギーである。
 過去をたどれば、厳しい自然の中で主要産業は水産業のみであった。わずかに産出する泥炭使用(1940年頃)は大気汚染を生んだ。湧き出る地熱の高温水の初歩的利用は1910年代からコンクリート管によって農業や暖房、大寒波対策を含めて始まっていた。
 後年、深深度の地熱や高温水の効率的利用、事業者相互の技術力強化など、国の方向付けもあった。地熱による暖房や発電等は特に地方自治体の熱心な取り組みがあり、さらには豊富な氷河融水による水力発電に進んだ。

 一方、輸入石油の依存による国富の流出は“経済的離陸”の足を引っ張り続け、特にオイルショックの到来は輸入依存による成長が限界を露わにしたこと、また枯渇資源の依存が人類の“成長の限界”に至る見通しを踏まえてエネルギー転換へと大きく舵を切った。
 持続可能な国づくりをかけて豊富に潜在する自然エネルギーを最大限利用する大胆な挑戦に踏み出した。CO2排出量が少なく安価な自然エネルギーを目指し、ヨーロッパにおいて特筆すべきダム建設や地熱発電の展開は進み、近年、台風並みの“豪風”を生かす風力発電にも乗り出し発電効率は日本の2倍強になる。周囲が海であることから波力や潮汐等の海洋エネルギーの潜在量は大きい。

危機感から高い関心が

  さらに最近のアイスランドは冷涼な気候を逆手にとって、電力多消による発熱量の大きいデータセンターの誘致を有利に進めている。
 かつてヨーロッパの最貧国の一つが、今や富裕国、環境先進国といわれるまでになった。このようなアイスランドの大転換はパリ協定の発効後、自然エネルギーの大量導入に拍車がかかる欧州のトップランナーといえる。
 「小さい国だから可能では……」といった声も耳にするが、この水準以下の小国は少なくない。必ずしも人口規模のみに帰着できない。
 北欧は厳しい自然から北米への移民が少なくなかった。どのようにして国を成り立たせるか、小国ゆえの国民各層における“危機感”の共有があるといわれる。
 それ故に社会全体に大きな影響を与えるエネルギーへの国民の関心や公的関与は高く、エネルギー転換はその意思の表れである。
 また、地熱発電の国際展開として国連大学等との連携による“アイスランド仕様”の輸出は約60カ国に及び、国際的な連帯・交易関係をつくり出している。世界には多くの遠隔的・孤立的な小国、離島・群島があるが、自然エネルギー政策にとって生きたサンプルである。

日本にもある潜在力

 今日、わが国では“地産地消”に根差す地域還元への取り組みが進む。地域で生産した電力を地域で消費することが地域活性化に欠かせない。地域消費が不足であれば発電量に見合う消費、例えば地場産業を創ることであるが、ことはそう簡単ではない。余剰電力は域外連系線で売電となる。
 同じくアイスランドにもその懸念があった。不十分な国内消費は自然エネルギー計画を頓挫させる。英国北端と結ぶ1000キロ超の海底送電線の検討は半世紀を過ぎ、最近相互協力の覚書を交わしたが、いまだ孤立系統である。
 従来アイスランド大学等の研究では安い電力で水素を生産し船舶輸送に利用できないか等の議論が重ねられ、世界で初めて野心的な「水素社会宣言」を行ってきた国とはいえ、この電力輸出は厳しい現実であった。
 しかし、国際市場とのしのぎを削る対外交渉で漕ぎつけた突破口は“電気の缶詰”といわれるアルミニウムをつくるアルミナ精錬であった。精錬後の製品は間接的な“電力輸出”である。この交渉は、アイスランドの自然エネルギーが国際的な比較優位を手の内にした歴史的快挙ともいうべき成果である。
 以上が積雪寒冷国、アイスランドの挑戦であり、自然エネルギーに大転換した姿である。
 日本にもアイスランド並みの“サイバー(仮想的な)小国”がある。豊富な自然エネルギーが潜在する地方である。確かに一国と地方では、制度や法律の仕組みが異なる。しかし、地方分権一括法により強化された地方権限が、新しい(政策の)扉を開く好機として到来している。その一つはCO2削減の“環境価値”を取り入れた工程表ともいうべき「自然エネルギー導入アクションプラン」の策定ではないだろうか。
 なお、本稿の詳細については『再生可能エネルギー政策の国際比較』第4章を参照してほしい。
 (京都大学大学院経済学研究科特任教授)

 かとう・しゅういち 1947年生まれ。学術博士(地球環境科学)。小樽商科大学教授等を経て現職。参議院議員3期18年、環境副大臣等を歴任。「バイオマス活用推進基本法」等の立法に取り組んだ。

(聖教新聞2017年6月8日(木)付 環境先進国アイスランドの試み 発電の95%を自然から 加藤修一)

本当にありがとうございます。
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